Facebook のリリースと文化

公開されたのはもう去年のはなしだけど、Facebook の リリースエンジニアリングの Tech Talk (予告編) は面白い。話している Chuck Rossi さんは Facebook のリリースエンジニアリングチームのリーダーだ。

彼は “The business requires change, but change is the root cause of most outages!” と話をはじめる。Facebook の規模で毎日変更をリリースするために、リリースのリスクをできるかぎり減らさなくてはいけない。そのために出てくるのが「文化」と「道具」だ。

文化

道具

最後に、話はこう締めくくられる。

Tools alone won't save you. You need the right people, the right culture and the right company.

Tech Talk については (“The Agile Samurai” の) Jonathan Rasmusson さんも How Facebook pushes new code live に要約を書いているので、そちらもどうぞ。

文化の善し悪し

Facebook の社内の道具はすごく洗練されている。Facebook Enginnering で様々なマネジメントの職についていたという Yishan Wong さんも Tools Are Top Priority と書いている。

Writing great tools and continuing to improve and replace them is more important than the next shiny feature.

それなのに、道具だけではうまくいかないのだ、という言葉はだいぶ重い。

一方の「文化」というのは、善し悪しというのをひとえには言いづらい。ある文化はある種の人々を許容しないし、ある文化はある種のワークライフバランスを保つことを許容できない。でも、それをもってその文化を「悪い」とは言えないと思う。

「良い会社」という文化と「良いソフトウェアを作る」という文化と「Facebook を作る」という文化は、重なるところもあるけど重ならないところもある。「Facebook を作る」文化の許容度というのは、とても狭いんじゃないだろうか。

ArsTechnica の Exclusive: a behind-the-scenes look at Facebook release engineering も同じくリリースエンジニアリングチームへの取材で、内容は Tech Talk とかぶるところも多いけど、文章なので読みやすい。 新キャンパスでチームは、部屋の区切りをうまいこと改造して “Hotfix Bar” と称している。バーだけあってお酒もあるんだけど、実はそれはお供え物だ。

Employees with low karma can regain their lost points over time by performing well—though some also try to help their odds by bringing Rossi goodies. Booze and cupcakes are Rossi's preferred currency of redemption; the release engineering team has an impressive supply of booze on hand, some of which was supplied by developers looking to restore their tarnished karma.

3ページ目 のこんな下りは、半分冗談もあるんだろうけど、ちょっと映画の “The Social Network” っぽいというか brogrammer じみていて引いてしまう。

Facebook はそれでも少しは楽しげで、Google 文化圏の、Web 系の新しい企業らしさがある。最近読んだ Adam Lashinsky の『インサイド アップル』なんかはだいぶ違っていた。

アップルで働くということが楽しいと言う人はほとんどいない。アップルは「楽しい」職場かと訊けば、答えは驚くほど一致している。

「みんな自分が手がけているすばらしいものに、信じられないほどの情熱を傾けているよ」。ある元社員はいった。「成功を認めあって祝う文化はない。大きな意味を持つのは仕事そのものだ」

別のひとりも次のように言った。

「もし筋金入りのアップル・ファンだったら、魔法のようにすばらしい職場だよ。でも同時に、本当に仕事がきつい職場でもある。製品を発案から発売まで持っていくわけだから、どれだけ残業しても足りないくらいだ」

3人目も同じように質問をはぐらかした。

「みんなアップルに情熱を燃やしているから、会社のミッションにぴたりと足並みがそろっている」

この文化と、例えば (なぜだか Apple 製品を使うひとが多い) Agile を喧伝する人の「いきいき」した文化とは大分開きがあるだろう。でもこれが Apple 製品を作るのには必要な文化の一部で、それで良い製品を作ることが出来て、なかで働く社員も納得しているのなら、なにかと比べて善し悪しをいうものではないと思う。